社内の会議やクライアント先の打ち合わせに出席する際、若いメンバーには必ずと言っていいほど議事録係が回ってきます。
楽しく忙しくがモットーのワーカプレイヤー的には「話の内容について行けるかな?」とか「聞き漏らしたり誤解してしまったらどうしよう?」と怯えていないで会議自体を自分のものにして楽しみたいですよね。
議事録の目的と会議のポイントをおさえて「デキるヤツ」の称号を得ましょう。
議事録を書いてと言われたらチャンス!
上司や先輩の多くは会議の議事録に対してあまり積極的ではありません。
「面倒だけど必要だから誰かに書かせよう」程度に考えている人が大半です。
でも優秀な上司であれば「どんな準備をしてくるかな?」「議事録の目的を理解しているかな?」と、取り組み方を見ています。
いずれにせよ議事録はその人の能力や将来性がハッキリと表に出る成果物。
無計画な上司に頼られる存在になったり、優秀な上司に次のステップに引き上げてもらうにはもってこいのチャンスです。
このチャンスをものにしない手はありません。
議事録係の立場をうまく利用してチャンスをものにしましょう。
議事録の目的とハズさないコツ
議事録はメンバーを守る最強のツール
プロジェクトには問題がつきもの。どんなに優秀なメンバーが集まっても必ず課題や問題が発生します。
問題が発生しても乗り越えているチームは次の行動とゴールが明確で問題が発生してもすぐに修正できます。
一方、失敗するチームは問題が発生すると責任の押し付け合いが始まります。
このチームの差は議事録を見れば明らかです。
成功するチームの議事録は目的とゴールと責任を合意したプロセスが記載されていて不毛な衝突が起こらないように工夫されています。
ハズさないコツは十分な準備
議事録はいつ作るものだと思いますか? 会議の直後? それとも会議中?
いいえ、議事録は会議の前に作るものです。
もちろん、会議は始まってみないとどのような結論になるかわかりません。
しかし議題から議論の流れと落とし所を予想することができます。
議事録は会議での発言を記録するものではなく、予定していた結論に向かったのか、他の結論が出た場合はなぜそのような結論になったのかを記録するための資料です。
議事録の準備 : 実は準備が一番楽しい。
準備1 アジェンダを入手しよう。なければさらにチャンス!
議事録係を任命されたら会議のアジェンダを入手しましょう。
アジェンダのフォーマットは会社によって様々ですが概ね以下の様式になっているはずです。
○○会議 第X回 アジェンダ
■日時: 20XX/XX/XX 10:00 - 11:00
■場所: ワーカプレイヤービル 第1会議室
■出席者(敬称略):
[相手の会社名] ○○、○○
[自社の会社名] ○○、○○
■配布資料
(1)スケジュール
(2)課題・課題一覧
(3)開発スケジュール案
(4)ヒアリング項目一覧
■進捗の報告 5分
■宿題の確認 5分
■議題
(1) 新システムの開発についてマイルストーンを決定する 30分
(2) ユーザーへのヒアリング項目をレビューする 10分
■ お願い事項
(1)新規入場者の入館申請をお願いいたします。(4名)
■ 連絡事項
(1)8/10〜8/20は弊社は休業日です。緊急の場合は○○までご連絡下さい。
アジェンダには会議が開かれた証拠と会議の参加者(=共同責任者)を記載する欄と、現状の確認をする欄(進捗、宿題)、議題、配布資料、今後の予定(お願い事項、連絡事項)を記載する欄を設けるのが一般的です。
その中で最初に見るべきところは「議題」です。
議題についての予備知識を頭に入れていけば会議で置いてけぼりになることはありません。
会議の運用に慣れている会社であれば議題が「○○について」ではなく「○○について○○を決定する」といった形式でゴールが明記されているはずです。
定例の会議であれば「進捗」や「宿題」という項目があるはずです。これは過去から現状までを確認する部分で、2番目に注目すべき点です。ここに何も問題がない場合でも全体の作業項目や体制、ゴールを把握しておかないと議論が頭に入らないことが多いので最初に会議に出席する際は一読しておきましょう。
まだアジェンダが作られていない場合は主な議題をヒアリングしてアジェンダの作成を買って出ましょう。アジェンダは会議の設計書です。アジェンダの作成をおさえると新人でも人や時間をコントロールできる様になります。
準備2 関係者に質問をしよう。できれば対面で。
議題を把握したら、議題について上司や関係者に質問をしましょう。質問内容は以下の2つです。
- これは何が課題で何を決める議題ですか?
- 落とし所はどうする予定ですか?
相手が上司でも先輩でもこの2つの質問には概ね好意的に答えてくれます。なぜなら、先輩や上司は「頼られている」という社会的欲求が満たされるからです。
忙しそうな上司や先輩に質問するのは怖いですか?
大丈夫です。以下の3点に注意すればどんな相手でも話を聞いてくれます。
- 誰に質問すればよいか上司に聞く。
- 「会議で議事録を取らなければいけない」という理由を先に言う。
- 質問するための時間をもらう。
質問する相手を上司に聞くのは担当に話を聞くための建前をもらうためです。また、残りの2つはちょっとしたソーシャルエンジニアリングです。
例えば上司には「議事録を作成するにあたって予備知識がほしいのですが、この議題については誰に聞けばよいですか」と担当を聞きます。
また、担当の人には「次の会議で議事録を取ることになりました。○○さん(上司)からこの議題は△△さん(担当)が詳しいと伺ったので内容と落としどころについて質問したいのですが、都合がいい時間を教えてもらえますか?」と時間をもらいます。
あとは担当の人が過去の経緯と次の会議の要点、落とし所を教えてくれます。人に説明するということはとてもエネルギーが必要です。質問が終わったら時間を頂いたことにお礼を言っておきましょう。
ここまでできれば上司から聞いた「会議の要点」と担当から聞いた「議題の詳細と落とし所」の両方の情報を手に入れているはず。つまり、次の会議について最も情報を多く持つ立場になることができます。
あとはどのような会議になるのか、どんな資料を作っているのか、上司がどんな観点で話をしているのかを観察して客観的に楽しみましょう。
質問はできれば対面で行いましょう。
ホワイトボードや画面を見ながらの方が説明しやすいですし、認識のズレも避けることができます。電話の場合は長電話になる傾向があるので事前に勉強してポイントを絞った質問を心がけましょう。ただ、対面と比べて得られる情報量には限りがありますし、誤解に基づく質問をしてしまうこともあります。メールはNGと考えてください。メールは文体を気にしたり誤解を避けるために説明が回りくどくなったりして時間を浪費します。
準備3 議事録の雛形を作ろう。
議題を把握できたら議事録を書く準備をしましょう。予め雛形を用意しておくと話を聞き漏らしたりメモを漏らしたりすることもありません。
雛形は決定事項を記録する部分(結論、宿題)と過程を伝える部分(議事=発言記録)に分けておきます。
議事録の雛形は以下のとおりです。アジェンダの作成を任せてもらえるならアジェンダの最後に「決定事項」と「議事」を書き足すだけでも良いでしょう。
○○会議 第X回 議事録 ■日時: 20XX/XX/XX 10:00-11:00 ■場所: ワーカプレイヤービル 第1会議室 ■参加者(敬称略) A社xx部 : 山田 B社xx部 : 鈴木 ■決定事項 (1) 開発のマイルストーン (2) ユーザーへのヒアリング項目 ■議事(敬称略) (1) 開発のマイルストーン (2) ユーザーへのヒアリング項目
議事録の敬称について
敬称には○○課長といった役職に相当するものと、○○様の様な敬語に相当するものがあります。
会社の議事録では前者を使います。後者は相手個人に対する敬称なので通常は使用しません。
社内の議事録と取引先の議事録でも敬称の使い方が違います。
社内の議事録では敬称をつけるのが一般的です。これは発言内容が権限の範疇内であるか、誰の責任で物事が決まったかを明確にするためです。
一方、取引先との議事録では敬称を省略します。会社対会社の決定事項を記載するものですから会社名、部署名、出席者がわかれば十分です。
もちろん同姓同名の可能性がある場合や、権限を明確にしたい場合は役職を付けることもできます。
その場合は「佐藤課長」ではなく「xx課課長 佐藤」の様に所属を先に記載します。これは「課長の個人的な見解ではなく、組織としての発言(課長が別の人に変わっても有効)」であることを強調するためです。
どうしても名前が呼び捨てになってしまうことに抵抗がある場合は議事録の先頭に「敬称略」と書き添えることでトラブルを防ぐことができます。
準備4 資料を印刷する役割を買って出よう
資料を印刷して持って行く場合は率先してその役割を買って出ましょう。会議の参加者やスタッフからすると面倒な作業を手伝ってくれてありがたい存在になれますし、あなたは会議の中身を何も知らなくてもメンバー全員の資料の作成状況を管理し、内容をチェックし、上司と対等に会話できる立場に立つことができます。(そしてこれは意外に楽しい。)
できるだけ早めに「次の会議の資料をまとめて印刷して持っていくので、前日の正午までに資料をメールで送って下さい。」とアナウンスしておきましょう。あとは大先輩の皆さんがあなたの言うとおりに資料を送ってきてくれるので、アジェンダに沿った名前にタイトルを変えてもらうなど微調整をしましょう。
資料を送ってくれない人には「明日の資料を印刷しようと思うのですが準備の状況はいかがでしょうか」と軽めの催促をしましょう。大事なのはあなたが決めた準備のスケジュールを守るために人を動かすというプロセスです。
会議当日はノーリスクでほどよく目立つ
会議室ではホワイトボードに一番近い席に座る
会議室に入ったらホワイトボードに一番近い席に座りましょう。ホワイトボードは皆の視線が集中する場所なので何も発言しなくても全員の視界に入ってとりあえず顔を覚えてくれます。
また、議論が煮詰まって空気が悪くなった際に「ちょっと話をホワイトボードにまとめてみますね」などと言いながら箇条書きで「課題」「対策案」「メリット・デメリット」といった簡単なカテゴリを書き始めましょう。
内容を理解していなくても「えーと…」と悩むふりをすれば先輩方がどんどん発言して補足してくれます。その間全員の視点はあなたに向かい、ノーリスクで存在感と積極性をアピールできてしまいます。
1点注意があります。その席が上座でないことを確認して下さい。上座は一般的に入口から最も遠い場所です。ホワイトボードに一番近い席が上座の場合は2番目に近い場所、それでも上座に当たる場合は諦めましょう。
オープニングを買って出よう
全員が集まったら会議を始める挨拶をしましょう。これができると相手のメンバーもあなたのペースで動かすことができます。
いきなり話し始めると上司が心配がるので、会議の前日くらいに「会議が始まったら配布資料の確認をして、あとの説明はみなさんにお任せする流れでいいですか?」と上司に確認しておくと良いでしょう。
オープニングは決まり文句なので以下のとおり読み上げるだけです。
- それでは時間になりましたので(または全員揃いましたので)会議を始めたいと思います。
- まずお手元の資料をご確認下さい。全部で○枚あり、上からアジェンダが1ページ、スケジュールが2ページ…. となっています。足りない方はいらっしゃいますでしょうか?
- 問題無い様ですので議題に入りたいと思います。まずは進捗について○○(担当)からご報告をお願いします。
- (以下、議題に沿って「次は議題○番について○○さんお願いします。」を繰りかえす)
怖がらずに質問する。
議事録の作成はそれほど苦では無いでしょう。事前に打ち合わせた内容をベースに話が進むはずなので内容の取捨選択も難しくないはず。
しかし、どうしても知らない言葉や前提が違う話題が出てくることがあります。その場合は内容を話の前後から推測して「念のため確認させて下さい。○○は××という理解でよいでしょうか?」と質問しましょう。
合っていれば合っていると教えてくれますし、間違っていればその場で教えてくれます。この時、相手から「わかってないな…」と思われることを恐れてはいけません。なぜなら相手は「誤解されなくてよかった」という心理の方が大きいからです。
また、あなたと事前に打ち合わせしたメンバーは高い確率であなたと同じ疑問を持っています。そこであなたが質問することによって「聞きたいことを聞いてくれるヤツ」という評価を得ることができます。
会議の最後に宿題と次回の予定を確認
すべての議題が終了したら宿題と次回の打ち合わせの日程を確認します。
とは言ってもやることは議事録に書いた「決定事項」を読み上げるだけです。
- それでは最後に決定事項と次回の予定を確認させて下さい。
- まず○○(ひとつ目の議題)については××という結論で、来週までに山田さんが資料を作成する。
- 次に○○(ふたつ目の議題)については…..
- という認識であっていますでしょうか?
これで問題があれば修正して、なければ「次回は○月○日の○時から○会議室でお願いします。お疲れ様でした。」と定型文を読み上げて会議を終了します。あなたのクロージングにしたがって全員が軽くお辞儀をして会議室を出て行くはずです。
会議終了後
議事録は「メールのちファイル」で配る
議事録は1時間(または3時間)以内に送るのがベストと言われています。確かに議事録は早いほど鮮度が高いのですが、毎回1時間以内に送るのは困難です。
そこで、まず決定事項だけメールのベタ書きですぐに送り、正式な議事録は翌朝までに送るという方法をお勧めします。
先にメールで決定事項を共有することで全員が速やかに次の仕事にとりかかることができますし、早めに認識のズレを確認することができれば正式な議事録の修正も楽になります。
自分を褒めて、反省しよう
議事録を全員に送ったら、まず成長している自分を褒めてあげましょう。
- プロジェクトの過去と現在を理解できた
- 上司や先輩と仲良くなれた
- 会議の話題の半分以上は理解できた
- 準備もしくは会議当日に仕切ることができた
- 怖がらずに質問できた
他にも自分で達成できたとか楽しいと思えることがあればとにかくそれを自分で褒めて下さい。受け身でビクビクしていた自分が積極的に楽しめている実感を持てれば自信になります。それは必ず次につながります。
そして周囲の人の反応を確認して下さい。評価されていることを実感できますか?
すぐに評価されなくても焦る必要はありません。大事なのはできなかったことを一つ一つ身に着けていくことと、周りの人とよく会話して溶け込むことです。3回目の会議までには必ずあなたは「デキるヤツ」と評価されるはずです。
最後に:会議の内容によってアレンジを
以上が会議と議事録作成の基本的な進め方ですが、会議の内容によって進め方をアレンジする必要があります。
たとえば1つの議題について様々な部署から意見を募るような会議の場合はオープニングで各自の役割を明確にする必要があります。「○○さんには××の観点で、△△さんには□□の観点でご意見を頂きたいと思います。」といった文面がスマートでよく使われます。
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作者名 :椥辻夕子 / MBビジネス研究班
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